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東京地方裁判所 平成7年(ワ)13732号 判決 1997年8月25日

主文

一  被告は、原告に対し、原告の平成六年一二月一九日宅地建物取引業法六四条の八第二項の規定による認証申出について、右申出にかかる債権額金六五〇万円について認証をせよ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第三項に限り、仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

一  主文第一項と同じ。

二  被告は、原告に対し、金一五〇万円及びこれに対する平成七年二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、土地売買仲介をめぐって仲介人に対し損害賠償請求権を取得した原告が、被告に対し、同債権について宅地建物取引業法六四条の八第二項の認証を求めるとともに、被告が右認証をしなかったことについて、不法行為に基づく損害賠償を求めている事案である。

一  前提事実

1 訴外船山不動産こと船山博(以下「船山」という。)は、平成五年四月二一日まで、社団法人である被告の社員であった者で、被告に加入するための条件として宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)六四条の九が定める弁済業務保証金分担金(宅建業法施行令七条により主たる事務所につき金六〇万円と定められている。)を納付した結果、被告は、平成七年二月八日の時点(後記前提事実5の認証日。なお、訴状記載の認証日である「平成七年二月七日」との記載は、明白な誤びゅうと思料される。)において、船山が行った宅地建物取引業に関する取引により生じた債権(宅建業法六四条の八第一項参照)について、宅建業法二五条二項、同法施行令二条の四により定められた主たる事務所についての営業保証金の額である金一〇〇〇万円の限度で、同条の八第二項が定める認証をすることが可能となっていた(原告は、当初、船山は宅建業法六四条の七に基づき、弁済業務保証金として金一〇〇〇万円を東京法務局に供託していたため、被告は金一〇〇〇万円の限度で認証が可能になった旨の主張をしたのに対し、被告はこれを否認し、船山は単に前記弁済業務保証金分担金を納付したのみで、被告はこれにより金一〇〇〇万円の限度で認証が可能になった旨反論したところ、原告はこれについて明確に反論していないこと、また、本訴手続の全課程において、原被告間で認証限度額が金一〇〇〇万円であることは全く争われていないことに照らすと、原告は、認証限度額が金一〇〇〇万円であることの根拠について、当初の主張を改め、被告の右主張どおりでよいとの意向を有していると認め得るので、その限度で事実に争いはないものと考えられる。)。

2(一) 原告は、別紙物件目録一ないし五の土地(以下それぞれ「一の土地」、「二の土地」などという。)を所有し、原告の父藤山利夫は、同目録六の土地を所有していた(特に被告が積極的に争っておらず、むしろ、原告の主張を前提とした反論をしていること。)。

(二) 三の土地は、平成五年一〇月一九日に分筆登記されるまで二の土地の一部であり、四の土地は、同日に分筆登記されるまで五の土地の一部であった(以下、分筆前の二及び三の土地を併せて「旧二の土地」、分筆前の四及び五の土地を併せて「旧五の土地」という)。

3(一) 原告及び藤山利夫(以下両名を併せて「原告ら」という。)は、平成二年ころ、船山に対し、一、旧二、旧五及び六の土地を一括売却するための売却仲介を依頼したところ、船山はこれを受託した。

(二) 船山は、右のとおり、原告らから単に仲介の依頼を受けただけであるにもかかわらず、原告らの了解を得ずに、原告らから預かっていた白紙委任状等を利用して、平成四年六月一八日、訴外保原耕基(以下「保原」という。)との間で、同人に対し、一及び旧二の土地を、代金一六〇〇万円で売り渡す旨約した。

(三) 訴外日本住宅興業株式会社(以下「訴外会社」という。)は、平成四年一月二一日付けで、保原に対して有する請負代金を被保全権利として、原告に対し、債権者代位権に基づき一及び旧二の土地について所有権移転登記手続を求める訴訟を提起し(札幌地方裁判所平成五年(ワ)第一五七号事件)、他方、原告は、平成五年六月一〇日付けで、一及び旧二の土地上に建物を所有する訴外会社に対しては右建物の収去と一及び旧二の土地の明渡しを、右建物に居住する保原に対しては右建物から退去して一及び旧二の土地の明渡しをそれぞれ求める訴訟を提起し(同裁判所平成五年(ワ)第一三二一号事件)、両事件が併合されて審理された結果、原告は、平成五年一〇月一二日、訴外会社及び保原との間で、原告及び保原間における一及び旧二の土地についての前記売買契約が有効であることを確認し、訴外会社が和解金として金八〇〇万円を原告に支払い、保原が旧二の土地から三の土地を分筆してこれを原告が取得し、他方、原告が旧五の土地から四の土地を分筆してこれを保原が取得する旨の訴訟上の和解をした。

4(一) 原告は、船山の右売却により、一及び旧二の土地の所有権を失ったため、これらの価額合計金二三八二万八〇〇〇円の損害を被った。

(二) 旧五の土地は、別紙図面一のとおり公道に接しておらず、原告が一及び旧二の土地の所有権を喪失したために、いわゆる袋地となったことから、これにより合計金五一四万一〇〇〇円相当の価値の下落が生じ、原告は、右金額分の損害を被った。

(三) 六の土地もまた、別紙図面一のとおり公道に接しておらず、四及び五の土地同様袋地となったことから、これにより金六二四万円相当の価値の下落が生じ、藤山利夫は、右金額分の損失を被った。

5(一) 原告は、右訴訟上の和解により、三の土地を取得したことから、原告所有の五の土地は袋地ではなくなったため、原告は評価額金五一七万六〇〇〇円相当の損害を回復し、また、藤山利夫所有の六の土地も袋地ではなくなったため、同人は評価額金三七一万七〇〇〇円相当の損害を回復した。

(二) また、原告は、右訴訟上の和解により、訴外会社から和解金八〇〇万円の支払を受けたため、同額分の損害を回復した。

6 原告らは、船山が原告らの了解を得ずに保原と一及び旧二の土地についての売買契約を締結したことから、金二〇五三万五一五六円(原告らは、当時、被告に対し、原告について金一六七五万〇〇五六円、藤山利夫について金三七八万五一〇〇円の損害が発生している旨主張していたため、右の合計金額となったもので、原告は、本訴の口頭弁論終結時においては、鑑定の結果に従い、原告及び藤山利夫がそれぞれ被った損害額についての主張を減額させている。)の損害を被ったとして、平成六年一二月一九日、被告に対し、宅建業法六四条の八第二項に基づき、原告らの船山に対する損害賠償請求権について認証を申し出たところ、被告は、平成七年二月八日、原告らの右請求権のうち債権額金三五〇万円の限度で認証した(争いがない。)。

二  争点

1 被告は、原告らの認証申出に対し、認証額金三五〇万円にとどまらず、限度額である金一〇〇〇万円まで(すなわち更に金六五〇万円についても)認証すべきものであったか。

(原告の主張)

(一) 前掲の前提事実4(一)ないし(三)並びに5(一)及び(二)によれば、船山の前記売却によって原告らが被った損害中、原告については金一五七九万三〇〇〇円、藤山利夫については金二五二万三〇〇〇円、合計金一八三一万六〇〇〇円の損害がいまだにてん補されていないことになる。

原告らの、船山に対するこれらの損害賠償請求権は、宅建業法六四条の八第一項にいう「取引上生じた債権」に該当するから、被告は、認証限度額の金一〇〇〇万円まで認証すべきであったにもかかわらず、前記のとおり、金三五〇万円しか認証しなかった。

原告らは、被告の認証による金三五〇万円を、まず、藤山利夫の損害のてん補に全額充当し、残余金九七万七〇〇〇円を原告の損害にてん補したことから、原告についてなお金一四八一万六〇〇〇円の損害がてん補されずに残っている。

その結果、被告は、原告に対し、なお認証限度額の残額である金六五〇万円について、認証すべきことになる。

(二) 被告は、原告らが訴外会社と訴訟上の和解をした以上、船山の無断売買の効果が有効であることを認めたのであるから、原告が本訴において認証を求めている債権(以下「本件債権」という。)は和解によって生じた債権であるとするが、原告らは、訴外会社との訴訟において、担当裁判官から、原告らが白紙委任状等を船山に交付していることに照らすと、原告らが、原告らと保原との売買契約の効果が帰属することを否定することはできず、船山が右売買契約をしたことが原告らと船山との間の仲介契約に違反する点については、原告らの船山に対する損害賠償の問題として処理すべきであるとの発言があり、原告らに対し、一ないし六の土地の所有権は保原に移転していることを前提として和解するよう勧告されたことから、原告らは、一ないし六の土地を失うことによる損害を最小限にくい止めるべく、やむを得ず訴外会社と和解をしたものであるから、本件債権は、やはり認証の対象となるべきものである。

(被告の反論)

(一) 弁済業務保証金制度趣旨とその認証対象範囲の関係

(1) 宅地建物取引をめぐる紛争による消費者保護の制度としては、昭和二七年六月制定の宅建業法に定められた営業保証金制度があるが、昭和四〇年代に入ってこの種の紛争が多発し、営業保証金制度のみにより消費者を保護することに限界があるとの認識が高まった結果、昭和四七年六月の宅建業法改正により、建設大臣が指定、監督を行う宅地建物取引業保証協会(以下「保証協会」という。)及び弁済業務保証金制度が設置され、昭和四八年九月二七日に保証協会の一つとして被告が設立された。そして、弁済業務保証金制度は、被告ら保証協会が「その自主的判断で」、損害の補てんのために営業保証金相当額の範囲内で弁済業務保証金から弁済を受ける権利を認証するものである。

したがって、被告は、宅地建物取引の健全な発展とともに消費者救済のための役割を期待されて、宅建業法に基づいて設立され、業務手続も建設省の指導、監督の下に行われる、いわば公的な団体であって、私的団体と一線を画している。

(2) 宅建業法六四条の八に定められる弁済業務保証金還付の範囲(すなわち被告による認証対象の範囲)については、以上のような被告の設立趣旨及び弁済業務保証金の制度趣旨を考慮して判断すべきものであるが、仮に消費者が業者に対して不動産取引に関して有する民事上のすべての債権について被告が認証しなければならないとすれば、同一業者による他の消費者の被害救済を不可能ならしめることになり、弁済業務保証金制度の趣旨、目的に反する結果となる。すなわち、弁済業務保証金は、常業保証金と異なり、業者が納付する弁済業務保証金分担金(宅建業法六四条の九)をもってまかなわれるものであるから、認証対象範囲を民事上のすべての債権とすれば、消費者を救済できなくなる結果を招くのであり、したがって、認証対象範囲について何らかの限定を加える必要があり、これは正に、弁済業務保証金制度下において予定された合理的な制約(内在的制約)といえる。

(3) そして、被告は、建設省の指導の下で、宅建業法の趣旨に則り、認証の範囲に関して弁済業務規約を作成している。

同規約一二条一項は、弁済業務(認証対象)の範囲について、宅建業法六四条の八第一項の規定に基づく会員と宅地建物取引業に関し取引をした者の有する、その取引により生じた債権と定めている。

同条二項は、一項にいう「取引により生じた債権」とは、取引自体によって生じた債権及び取引に関連して生じた債権と定めている。

さらに、同条三項二号は、取引に関連して生じた債権について、取引と相当因果関係を有する利子(法定利息相当額)、違約金(実損金額の範囲内)、損害金(実損金額の範囲内)等具体的内容を定め、同条五項は、実損金額の範囲外である損害金等について、認証対象外である旨定めている。

(二) 本件債権が認証対象外である根拠

原告らが船山に土地売却の仲介を依頼してから訴外会社と訴訟上の和解をするまでの経緯が、仮に原告の主張どおりとすれば、船山による無断売買の効果は原告らに帰属することはない。したがって、原告らが土地について損害を被ったとしても、それは、原告らが右訴訟上の和解をすることによって、船山の無断売買の効果を受けることを認めたことに基づく。すなわち、原告らが船山に対して有する損害賠償請求権(このうち原告が有する債権が本件債権である。)は、右和解によって生じた債権であるから、宅地建物取引により発生した債権ではない。

宅建業法六四条の八第一項にいう「取引により生じた債権」とは、宅地建物取引業者が当事者として不動産売買を行ったが、債務不履行により解除されたのに受領した金員を返還しなかった場合、売買契約の仲介をしながら相手方からの預り金を依頼者に渡さなかった場合などが典型であるが、本件では、右和解により、原告ら及び保原間の売買契約が有効とされたため、船山が保原から支払われた代金一六〇〇万円を原告に渡さなかったことに基づく金一六〇〇万円が損害となるところ、船山は、売却対象となった土地について金四五〇万円の造成費用を原告らに立て替えて負担しており、また、原告らは訴外会社から和解金八〇〇万円を受領しているので、これらの合計金一二五〇万円を右金一六〇〇万円から差し引いた結果、認証対象は金三五〇万円となった。

(三) 原告主張の損害額についての問題点

(1) 原告は、船山の売却処分時をもって、残土地損害算定基礎時としているが、そもそも、原告らに船山の売却行為の効果が帰属することになったのは、和解で原告らがその効果を認めたことによるものであることなどを考慮すれば、船山の売却処分時を損害算定基準時とすることには問題がある。

(2) 一般的に、土地の客観的価格と実際の売却価格とを比較することによって、相当因果関係のある損害を認定することはできない。なぜなら、売却価格は、様々な要素が絡み合って決定されるものであるから、売買契約に関して生じた損害額の算定に、客観的価格を用いることは不合理である。

また、原告の主張する損害の発生は、一ないし六の土地の一団の土地が、船山に仲介依頼をした当時、あるいは、船山が無権代理による売却を行ったときに、確実に一団の土地として売却できたか、又は、その蓋然性があったことを前提とするものであるが、本件の場合、そのような前提事実が存するとは認め難い。

(3) 仮に、原告の主張どおり、船山への白紙委任状等の交付により原告らがやむなく和解をしたというのであれば、原告らには、船山に白紙委任状等を交付したことによる過失があることになるため、過失相殺の問題が生じ、被告には、原告が損害として主張する金額全部について認証すべき義務はないことになる。

2 被告が金三五〇万円しか認証しなかったことは、不法行為に該当するか。

(原告の主張)

被告は、争点1について原告が主張したとおり、本件債権に関して金一〇〇〇万円について認証すべきところ、故意又は過失により、金三五〇万円しか認証せず、その結果、原告は、権利保全のため原告代理人二名に訴訟手続を委任せざるを得なくなり、そのため、少なくとも、着手金三〇万円、報酬金一〇〇万円、旅費日当金二〇万円(代理人桶谷治が、事務所を構えている札幌市から、本訴が係属している東京地方裁判所まで出張する際の旅費日当の二回分)、合計金一五〇万円の支出を余儀なくされ、損害を被った。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1(一) 前記前提事実2(一)及び(二)、3(一)及び(二)、4(一)ないし(三)、5(一)及び(二)並びに6によれば、原告は、船山に対し、民事上、なお金一四八一万六〇〇〇円の損害賠償請求権(本件債権)を有していることになる。

被告は、争点1の被告の反論(三)(1)ないし(3)において、右損害額の主張について疑問を呈するが、甲一一の二によれば、原告らが、札幌地方裁判所に対し、船山を被告とする損害賠償請求訴訟を提起し、損害賠償請求権の根拠として、本訴における主張と同一の主張(ただし、損害額については本訴における鑑定を経ていないため、異なっている。)をしたところ、船山は請求原因事実をすべて認めた上で抗弁を主張せず、他方、札幌地方裁判所は原告らの主張における法的理論構成について何ら疑問を呈することなく、その請求全額について認容する判決をしていることが認められることなどを考慮すれば、原告の主張する損害額については、事実認定の面でも、法律解釈の面でも、何ら問題とすべき点はない。

(二) 次に、被告は、前記のとおり、本件債権は和解によって生じた債権であるから、認証の対象外である旨反論する。

仮に、訴外会社が原告らに対し提起した前記訴訟において、原告らが当然勝訴すベきであったにもかかわらず、あえて和解に応じたのであれば、それによる負担について被告に認証を求めるべきでないことはもっともであるところ(しかも、乙一の弁済業務規約によれば、和解によって生じた債権が認証の対象外であることは明白である。)、本件債権が和解によって生じた債権であるといえるためには、その文言に忠実に従えば、本件債権が和解をしなければ生じなかったといえることが最低条件となるが、前記のとおり、原告らが船山に対して提起した損害賠償請求訴訟において、船山が、原告ら主張の請求原因事実をすべて認めた上で、何ら抗弁事実を主張していないことからすれば、船山は正に自分の違法行為によって原告らに損害を与えたとの意識を有していると認められること(請求棄却の判決を求めたことは、単に認諾を避けた程度の意味しかないと認められる。)、弁論の全趣旨によれば、原告らが訴外会社と和解をしたのは、争点1における原告の主張(二)のとおり、担当裁判官から、一ないし六の土地の所有権は保原に移転していることを前提として和解するよう勧告されたことによると認められることからすれば、本件債権は、和解によって生じた債権ではなく、あくまで、船山の違法行為によって生じた損害賠償請求権であると認められる。

なお、被告の主張を見る限り、被告は和解によって原告の損害が「確定的となった」ことをも問題にしているようにうかがえるが、「確定的になった」との一事によって、本件債権が損害賠償請求権でなくなるわけではない。

2(一) 以上のとおり、本件債権が民事上の損害賠償請求権であったとしても、被告は、民事上の債権であるとの一事をもって当該債権が認証の対象になるわけではないと反論するところ、弁済業務保証金制度には内在的制約があるため、民事上のすべての債権を認証の対象とすべきでないこと、弁済業務規約の内容には十分合理性があることは、正に被告の主張するとおりと言えるので、右債権が民事上の債権であることから当然に認証の対象になるわけではないことは確かである。

(二) そこで、右内在的制約を理由に、本件債権が認証の対象外となるかどうかを検討する必要があるが、本件全証拠を総合しても、本件債権が認証の対象外であることをうかがわせる事情は見当たらない。

乙一によれば、本件債権は、弁済業務規約一二条三項二号(三)に定める損害金(実損金額の範囲内)に該当するものと認め得るもので、同規約には、不動産取引仲介契約に違反したことに基づく損害賠償請求権である本件債権が、認証の対象外であることをうかがわせるような条項も、さらには、損害賠償請求権に和解が絡んでいた場合に、それら認証の対象外となることをうかがわせるような条項は全く見当たらない上、被告の主張する制度趣旨等から、和解が介在した損害賠償請求権が認証の対象外となることを根拠付けるだけの事情をうかがうことができない(すなわち、被告は、第一六回口頭弁論期日において陳述した平成九年三月一〇日付け準備書面において、被告の存在意義、弁済業務保証金制度の趣旨等について主張しているところ、その主張においては、民事上の債権のすべてが認証の対象になるわけではないことの説明はなされているものの、何故原告の船山に対する右債権が認証の対象外であることになるのかについては、全く説明がなされていない。)。

また、被告は、これまで弁済業務の範囲及び内容に関して行政指導を受けたことはなく、本件の認証もこれまでの運用に沿ったものであるから、問題はない旨反論するものの、過去において行政指導を受けなかったことは、単に本件のような問題点について意識されてこなかったことを示すにとどまり、従前の運用に何ら問題がなかったことを裏付けるものとは言い切れないのであるから、被告の右反論は失当である。

二  争点2について

1 争点1について判断したとおり、被告は、金一〇〇〇万円まで認証すべきであったと認められるものの、本件全証拠を総合しても、被告が故意に原告らの還付金請求権を侵害すべく金三五〇万円に限って認証したことを裏付けるだけの証拠はない。

2 また、本件全証拠を総合しても、被告の右認証が、過失に基づくと認めることはできない。

すなわち、被告が金三五〇万円についてのみ認証したのは、被告の法規解釈がそのようなものであったにすぎないと考えられるにとどまり、被告がこのような解釈をしたことについて、過失があったと認めることはできない。

三  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、金六五〇万円の認証を求める限度で理由がある。

(裁判官 柴崎哲夫)

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